薄められた日

白のワイシャツを着て、袖が擦り切れたセーターを重ねて
紺色のブレザーに袖を通して、廊下を歩いていた
机も椅子も無くなったがらんどうの教室に西日が差し込み
黄色から橙色への薄いグラデーションが、何百回も箒で掃いた床を温めていた
夜になれば冷えるだろう冷える前のほの暖かい風が頬を誘い
窓の向こう側を覗きこんだ

丘の下には街が広がっていて、水彩画で描かれたように水っぽい住宅地が見えた
恋人と自転車をおしながら帰る今日までの同級生も見える
さようなら
しぶとく通い続けた通学路が平坦な道に見える

黒板にはクラスメートの思い思いが書いてあるが
もうここで授業を受けることもない
自己紹介の挨拶をすることもない
はじめましての時に予感する物語に高揚することもない
上履きを買うために並ぶこともない
制服から漏れる匂いを恋とかき混ぜることもない
チャイムが鳴った瞬間に購買へ走ることもない

大人になれなければならない時が近づいている
わたしはこの教室を出たあと、どこへ行けばいいのだろう
廊下にはもう誰も居ない 
鬱陶しかった私語も聞こえない
夢で口説く汗の滲みも見当たらない

今日は卒業式だった