借り物の寝間着で

朧げに映るか映らないかの遠い処
煌めく軌跡は蛞蝓の足跡のように眩い
戻ろうとも戻り得ない
鏡の前に立てば立つほど経過したその光の前に
沸き立つ記憶の匂いと共に胸が揺らぐ
缶ビールの飛沫
急ごしらえの歯ブラシ
初めて横たわる他人の布団
どれもが連なる時空の粒で
触れた肌に命と死が邂逅する瞬間
嗚呼
寂寥とした闇に目が慣れた頃
こんなにもただそこにある天井が美しく思えたことはないことを知る
かつて記憶を記憶とせずに泳いだ数夜の残像は
二千十六年、深い体温のもと実像になってしまった
アコーディオンが時の壇上で踊るようにはためき
燦々とした蛇腹の夜を連れて眼前に鎮座している